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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)7147号 判決 1955年6月20日

原告 古川浩

被告 株式会社後楽園スタヂアム

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

(1)  被告会社の昭和二九年七月一〇日の株主総会においてなされた

(一)  資本増加のため定款の一部変更の件

定款第五条中「一六〇〇万株」とあるを「一六五〇万株」と改める。

(二)  資本増加による新株式発行の件

1 発行新株式数 記名式額面普通株式(一株の額面五〇円)一、一〇〇万株

2 資本増加額 五五、〇〇〇万円

株金払込による資本増加額 三三、〇〇〇万円

再評価積立金の内資本組入額 二二、〇〇〇万円

3 新株式の割当 昭和二九年七月三一日午後五時現在の株主に対し、その所有株式一株につき二株の割合を以て割当てる。

4 発行価額 一株につき五〇円。

5 払込金額 発行価額五〇円の内二〇円は再評価積立金を以て充当し残額三〇円は払込金を徴収する。

6 申込証拠金 一株につき三〇円とし払込期日に新株式払込金に振替充当する。但し申込証拠金には利息をつけない。

7 申込期間 自昭和二九年八月二五日 至昭和二九年九月一六日

8 払込期日 昭和二九年九月二四日

9 申込期間内に引受のない株式の処理、その他新株式発行に必要な一切の事項並びに本総会決議の趣旨に反しない程度の必要な修正は、すべて取締役会に一任する。

10 前記各項については証券取引法による届出の効力発生を条件とする。

(三)  定款の一部変更の件

本議案の決議は、再評価積立金の一部資本組入れ並びにこれに伴う新株式発行と同時に効力が発生するものとする。

(一) 定款第五条中「一六五〇万株」を「六〇〇〇万株」に改める。

(二) 定款第三六条を左の通り改める。

第三六条 昭和二九年九月二四日当会社の発行する株式の総数の変更により増加した未発行株式に対する新株引受権については、第六条の規定を準用する。

との各決議が無効であることを確認する。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、請求の原因

(一)  原告は被告会社の株主である。

(二)  被告会社は、昭和二九年七月一〇日午前一〇時本店に臨時株主総会を招集し、同総会において請求の趣旨記載の各決議及び

再評価積立金の一部資本組入の件

再評価積立金の内二二、〇〇〇万円を資本に組み入れる。

この組入の効力は昭和二九年九月二四日に発生するものとする。

との決議がなされた。

(三)  しかしながら請求の趣旨記載の各決議は以下述べるとおりの理由によりその内容が法令に違反するものであるから無効である。

(1)  請求の趣旨(1) の(一)の決議(以下第一決議という)について。

被告会社定款第五条の規定は従前「当会社の発行する株式の総数は一、六〇〇万株とし、すべて額面株式とする。額面株式の一株の金額を金五〇円とする。」とあつたのを本件決議により「当会社の発行する株式の総数は一、六五〇万株とし、すべて額面株式とする。(以下前と同じ)」と変更したものである。被告会社の本件決議当時の発行済株式の総数は、五五〇万株であつたから、ひつきよう被告会社は従前の未発行株式一、〇五〇万株を本件決議により五〇万株増加し、一、一〇〇万株として再評価積立金の一部の資本組入に伴う新株一、一〇〇万株の発行を可能ならしめようとしたものに外ならない。

さて、会社が、その発行する株式の総数を増加する場合においては、商法第三四七条第二項によつて「増加すべき株式」につき定款を以て新株引受権に関する定をしなければならない。しかるに本件第一決議においては「増加すべき株式」につき明かに新株引受権に関する定を欠いているから、違法であるといわなければならない。もつとも、被告会社は右第一決議の瑕疵を補正するため昭和二九年八月二五日臨時株主総会を招集し、同総会において、定款第六条の二として「昭和二九年七月一〇日当会社の発行する株式の総数一、六〇〇万株を一、六五〇万株と変更したるにより増加した未発行株式に対する新株引受権については株主及び役員従業員顧問嘱託相談役並びにこれらの職にあつた者に対し取締役会の定めるところによつて新株引受権を与えることができる」との規定を挿入したのである。しかしながら原告は本件第一決議の無効は右八月二五日の決議によつてもなお、治癒されたものではないと信ずるのである。

そもそも、被告会社は、本件第一決議によつて会社が発行する株式の総数が増加された結果、商法第三四七条第二項の規定によつて新株引受権に関する定をなすべき「増加すべき株式」を一、六五〇万株と一、六〇〇万株との差五〇万株であると考えているようであるが、これは誤である。この場合における商法の右規定にいう「増加すべき株式」とは変更後の会社が発行する株式の総数一、六五〇万株と発行済株式の総数五五〇万株との差一、一〇〇万株をいうのであつて、被告会社はこの「増加すべき株式」一、一〇〇万株全部につき新株引受権に関する定をなすべきであるにもかかわらず、そのうち五〇万株についてのみ新株引受権に関する定をしたにとどまるのであるから、第一決議そのものも亦依然として無効なのである。蓋し、商法は、会社が発行する株式の総数の増加を認めているけれども、発行予定株(未発行株式)のみを増加することは許していないものと解せられるところ、本件第一決議を以て会社の発行する株式の総数を、一、六〇〇万株から一、六五〇万株に増加したものと解するにおいては、発行予定株五〇万株のみの増加を認めたことに帰せざるをえないのである。従つて本件第一決議はその文言にかかわらず、会社が発行する株式の総数一、六〇〇万株とあるのを取り消して、発行済株式の総数五五〇万株の四倍を超えざる範囲内において一、六五〇万株と改定したものに外ならず、いわゆる「増加すべき株式」は一、一〇〇万株でありこれに対し新株引受権の定をすべきこととなるのである。(なお、会社が発行する株式の総数が一、六〇〇万株であつたときの未発行株式一、〇五〇万株に対する新株引受権の定は一、六〇〇万株が取り消されると同時にともに消滅する理であるから、改定後の未発行株式一、一〇〇万株については全く新株引受権の定がないのである。)

(2)  請求の趣旨(1) の(二)の決議(以下第二決議という。)について。

会社が発行する株式の総数を一、六〇〇万株から一六五〇万株に増加する第一決議が無効である以上、発行済株式の総数が五五〇万株である被告会社が本件第二決議によつて新株一、一〇〇万株を発行するときは、会社が発行する株式の総数を超えて株式を発行することになり法律上許されないものであることは明白である。よつて第二決議も亦無効である。

(3)  請求の趣旨(1) の(三)の決議(以下第三決議という。)について。

(イ) 定款第五条中会社が発行する株式の総数一、六五〇万株を六、〇〇〇万株に変更することは、前記第一決議が有効であることを前提とするものであるから、右第一決議が前述のように無効である以上、会社が発行する株式の総数を六、〇〇〇万株に増加する決議も亦無効とならざるをえない。

(ロ) 定款第三六条は、従来、「昭和二八年七月二〇日当会社の発行する株式の総数の変更により増加した未発行株式に対する新株引受権については第六条の規定を準用する。」とあつたのを本件総会において請求の趣旨(1) の(三)記載のように変更したものである。

さて、定款第六条の規定は、被告会社の発行する株式の総数が一、六〇〇万株、発行済株式の総数が五五〇万株なるとき、その未発行株式一、〇五〇万株に対する新株引受権に関する定としてもうけられたものであるところ、会社の発行する株式の総数を、一、六五〇万株に変更したのに伴い失効したが、仮に然らずとしても右第三六条の改正がその効力を生ずる昭和二九年九月二四日においては、右未発行株式はすでに全部発行済となつてしまつているから第六条の規定の適用をうくべき未発行株式は存在せず、従つて同規定は失効しているわけである。

そうであつてみれば、失効した規定を準用するということは意味をなさないから、かかる無意味なことを規定した第三六条を変更する決議も亦無効であるといわなければならない。

(ハ) 本件総会当時においては被告会社の発行済株式の総数はまだ一、六五〇万株になつておらず、ただ将来(昭和二九年九月二四日)そうなるという予想がなされうるにすぎなかつたものであるのに、当時の発行済株式の総数五五〇万株の四倍を超えて一挙に発行する株式の総数を六、〇〇〇万株に増加しこれによつて増加すべき株式につき第三六条の規定を変更して新株引受権に関する定をしたのは商法第三四七条第一項に違反したものであつて、この点からいつても右決議は無効である。

(四)  よつて、本件第一ないし第三決議の無効確認を求めるため本訴に及んだのである。

三、被告の答弁及び主張。

(一)  主文第一、二項同旨の判決を求める。

(二)  原告主張事実中、原告が被告会社の株主であること、(但し、六株の株主である。)被告会社が原告主張の日時に臨時株主総会を招集し原告主張の各決議をしたこと、本件総会当時における被告会社の発行する株式の総数及び発行済株式の総数が原告主張のとおりであることは認めるが、右各決議が法令に違反して無効であることはこれを争う。

(三)  本件各決議は、再評価積立金の一部の資本組入によつて新株を発行しようとするものであつて、「株式会社の再評価積立金の資本組入に関する法律」(昭和二六年法律第一四三号以下組入法という。)に従つて決議されたものである。

すなわち、本件第一決議は、会社の発行する株式の総数を五〇万株だけ増加して、未発行株式の総数を一、一〇〇万株とし、再評価積立金の資本組入により新に発行せんとする株式の数一、一〇〇万株と一致させたのである。

次に再評価積立金の一部資本組入の件(請求の原因(二)参照)の決議により再評価積立金のうち資本に組み入れる金額二二、〇〇〇万円の承認をえたのである。

而して第二決議は、組入法第四条により新株の発行価額の一部を株主に払い込ませるものとし、発行価額を一株五〇円そのうち二〇円を再評価積立金を以て充当し、残額を払込金額とし、昭和二九年九月二四日を払込期日と定めて新株一、一〇〇万株を発行することとしたのである。従つて、第一決議による会社が発行する株式の総数の増加は第二決議による再評価積立金の一部資本組入による新株発行のためにするものであつて、その増加した株式に対する新株引受権は第二決議によつて全部株主に与えられているのであるから、これらの決議は相互に関連したものであつて、独立したものではないのである。

原告は、会社が発行する株式の総数を増加する場合には、商法第三四七条第二項の規定によつて増加すべき株式につき定款に新株引受権に関する定をしなければならないと主張するが、右は一般に授権資本の枠を拡大するため会社が発行する株式の総数を増加する場合の規定であつて、再評価積立金を資本に組入れた場合になされる新株発行にあつては、前記組入法により新株は株主に対しその有する株式の数に応じて発行される旨定められているから、商法第三四七条第二項の適用がないものと解すべきである。仮にしからずとして、定款において新株引受権に関する定をしてみても、右法律の規定を排除しこれと異なる定をすることはできないのであるから全く無用の定をしたものという外ないであろう。

以上のような次第で原告の主張は全く理由がないのであるが、株式市場においては被告会社が本件決議をなすとともに新株について取引が始められ相場も建てられたので、被告会社としては、本訴の提起によつて一般株主が損害を蒙るべきことを虞れ、念のため昭和二九年八月二五日更に臨時株主総会を招集し、同総会において、定款の一部を変更し第六条の次に第六条の二として「昭和二九年七月一〇日当会社の発行する株式の総数一、六〇〇万株を一、六五〇万株と変更したるにより増加した未発行株式に対する新株引受権については株主及び役員従業員顧問嘱託相談役並びにこれらの職にあつた者に対し取締役会の定めるところによつて新株引受権を与えることができる。」との規定を挿入した。よつて、現在においては原告の主張は一層理由がないことになつたわけである。

しかるに、原告は、本件第一決議は会社が発行する株式の総数一、六〇〇万株を商法第三四七条第一項により発行済株式五五〇万株の四倍を超えざる範囲において一、六五〇万株に増加するもので、文字の上では一、六〇〇万株を一、六五〇万株に増加するものであつても実は五五〇万株の発行済株式を一、六五〇万株に増加する趣旨のものであるから、この場合の法のいわゆる増加すべき株式は一、一〇〇万株であり、定款第六条の二が昭和二九年七月一〇日会社が発行する株式の総数一、六〇〇万株を一、六五〇万株と変更したるにより増加した未発行株式五〇万株につき新株引受権の定をしたのでは、なお、増加すべき株式、一、一〇〇万株のうち一、〇五〇万株に対する新株引受権の定を欠くから違法無効であると主張する。しかしながら商法第三四七条第一項は、会社が発行する株式の総数中になお未発行株式がある場合においても会社が発行する株式の総数を発行済株式の総数の四倍を超えない範囲内で増加することを許しているのであり、また、同条第二項は、会社が発行する株式の総数が増加された場合には、その度毎に当該増加株式に対し新株引受権の定をすれば足りる旨規定したものと解すべきである。被告会社においては、本件総会当時の未発行株式一、〇五〇万株については、すでに定款第三六条(但し、変更前の規定)において「昭和二八年七月二〇日当会社の発行する株式の総数の変更により増加した未発行株式に対する新株引受権については第六条の規定を準用する」との規定を設けており、本件第一決議において増加した五〇万株に対しては前述のとおり定款第六条の二の規定を有するのであるから新株引受権に関する定款規定については何ら欠くるところはない。

(四)  本件第三決議に関する原告の主張について。

(イ)  原告は、昭和二九年九月二四日においては、定款第六条所定の未発行株式は既に全部発行済となつているから右規定はその対象を失い実質上失効して存在を喪失した規定であつて、従つてこれを準用することも許されないと主張する。

しかしながら、定款の規定は、変更若しくは削除されない限り、仮令原告主張のような事由があつても、形式上依然存在しこれを他の規定において準用することが毫も不当でないことは多言を要しない。原告の主張は理由がない。

しかしながら、被告会社は原告のかかる理由なき主張によつて一般株主に不安の念を抱かしめることを惧れ、念の為、前記昭和二九年八月二五日の臨時株主総会において定款第三六条を「昭和二九年九月二四日当会社の発行する株式の総数一、六五〇万株を六、〇〇〇万株と変更したるにより増加した未発行株式に対する新株引受権については、株主及び役員従業員顧問嘱託相談役並びにこれらの職にあつた者に対し取締役会の定めるところによつて新株引受権を与えることができる。」と変更した次第である。

(ロ)  次に、原告は、被告会社が本件決議において昭和二九年九月二四日の新株発行を条件として会社が発行する株式の総数を六、〇〇〇万株に増加したことを以て商法第三四七条第一項に違反していると主張するけれども、株主総会の決議が条件附又は期限附でなされうることは疑のないところであるからこの点に関する原告の主張も理由がない。

四、証拠<省略>

理由

一、原告が被告会社の株主であること、被告会社が昭和二九年七月一〇日午前一〇時本店において臨時株主総会を開催し同総会において請求の趣旨記載の第一ないし第三決議及び再評価積立金の一部資本組入の件と題する決議をなしたこと、右総会の当時被告会社の発行済株式の総数は五五〇万株、会社が発行する株式の総数は一、六〇〇万株であつたことはいづれも当事者間において争がない。よつて以下順次原告の主張について判断を加える。

二、第一決議について。

本件第一決議においては、会社が発行する株式の総数が一、六〇〇万株から一、六五〇万株に増加せられ、しかも昭和二九年七月一〇日の本件総会においては、右定款変更によつて増加すべき株式につき何ら新株引受権に関する定がなされなかつたことは前認定の事実関係から明白である。しかるところ、被告会社は、右増加すべき株式五〇万株は、その余の未発行株式一、〇五〇万株とともに再評価積立金の一部資本組入による新株一、一〇〇万株発行の対象となり、組入法の明文によつて株主にその新株引受権が与えられるから、特にこれに対し新株引受権に関する定を設ける必要がないと主張する。

なるほど、再評価積立金の資本組入による新株発行の特別決議に際して授権資本の枠(会社が発行する株式の総数)が足りないため、発行しようとする新株数に不足するだけ会社が発行する株式の総数を増加する場合においては新株引受権に関する定を必要としないようにみえる。しかしながら、右場合においても右新株発行の結果法律上未発行株式を生ずる虞が全くないとき(例えば、新株の割当に際し端株を生ぜず、且つ、新株の発行価額の一部を株主に払い込ませない場合)は格別、本件新株発行の如きにあつてはあるいは新株引受権者たる株主の引受がなく(失権株)これについて公募を行つても応募がない等のために払込期日後に未発行株式を残すかもしれないのであつて、そうなれば新株引受権の定めのない未発行株式が存在するにいたる可能性がある(右いわゆる失権株が従前の未発行株式一、〇五〇万株に帰すべきものなりや第一決議による増加未発行株式五〇万株に帰すべきものなりやの判定は困難な問題であるが、増加未発行株式五〇万株から生じたものと解しうる限り未発行株式中新株引受権の定なきものが存在することになるのである)わけであるから、これに備えて新株引受権の定を設けるべきであつたのであり、その限度において第一決議の効力には疑問が存するのであるが、他方被告会社が、本件総会後昭和二九年八月二五日再び臨時株主総会を開催し同総会において本件第一決議により増加すべき株式に対する新株引受権に関する定として定款第六条の二の規定(この規定は、従前の未発行株式一、〇五〇万株に対する新株引受権の定と同一である)を新設する旨の決議をしたことは当事者間に争のないところであるから、仮に本件第一決議が無効であつたとしてもその無効はこれによつて治癒せられ、現在においてはその効力を争うことができなくなつたものと解するのが相当である。

原告はこの点につき定款第六条の二の規定はこの場合における「増加すべき株式」一、一〇〇万株全部について新株引受権の定をしたものでなく、その一部たる五〇万株についてのみ規定しているのであるから、第一決議は、これによつて増加すべき株式中一、〇五〇万株について新株引受権の定を欠く点において依然として違法であると主張する。しかしながら、商法第三四七条第二項にいう「増加すべき株式」とは、同条第一項による増加後の「会社が発行する株式の総数」から従前の「会社が発行する株式の総数」を差し引いた株式数(もちろん未発行株式である)をいい、これについて新株引受権の定をすれば足りるものであつて、定款第六条の二の規定も亦この趣旨に副つて制定されたものと解するに何の妨もない。原告の主張は独自の見解に基くもので採用することができない。

三、第二決議について。

以上のように第一決議が有効である以上、従前の未発行株式一、〇五〇万株に第一決議によつて増加した五〇万株を加え、一、一〇〇万株の範囲内において新株一、一〇〇万株を発行しようとする第二決議はもとより適法有効であつて、会社が発行する株式の総数を超えて新株を発行しようとするものではないから原告の主張は理由がない。

四、第三決議について。

(イ)  原告は、第一決議が無効である以上、同決議によつて増加された会社が発行する株式の総数一、六五〇万株を基準として更にこれを六、〇〇〇万株に増加したのは違法であると主張するが、右主張は、第二決議に関する主張と同様第一決議が無効であることを前提とするものであるから、第一決議が有効である以上何ら理由がないことは多言を要しない。

(ロ)  次に、原告は第三決議中定款第三六条を変更した部分を違法であると攻撃しているが、右は、本件総会の後昭和二九年八月二五日に開催された被告会社臨時株主総会において再度変更せられたことが当事者間において争がないから、現在においては、もはや、本件第三決議中定款第三六条を変更する部分が違法なりや否やを確定すべき法律上の利益が存しない。原告の主張は理由がない。

(ハ)  最後に、原告は、被告会社が本件第三決議により本件総会当時の発行済株式の総数五五〇万株の四倍を超えて一挙に会社が発行する株式の総数を六、〇〇〇万株に増加したのは商法第三四七条第一項の規定に違反し違法であると主張するが、本件決議自体の内容から明白なるが如く、右会社が発行する株式の総数の増加は、本件決議の日にただちに効力を生ずるものではなく、被告会社のなした再評価積立金の一部資本組入の効力発生及び第二決議による新株一、一〇〇万株の発行により発行済株式の総数が、一、六五〇万株となつた後その四倍を超えない範囲内である六、〇〇〇万株に増加する効力を生ずるのであつて、株主総会の決議の効力の発生をこのような条件にかからしめることは法律上別段禁止されたものでないから、これを以て違法であるということができない。原告の主張は理由がない。

五、結論

以上の次第であるから、原告の請求を理由なきものとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 太田夏生 宮本聖司)

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